野川出版の Blog

「私にはそんな軽はずみなことをしがちな悲しい習性があったのである。」

これは、太宰治著『列車』の中の一節である。
『列車』は、初期の創作集『晩年』に収められている短編であり、そのあらすじは、ある友人が昔の恋人と別れて彼女を田舎へ帰す時に、なぜか自分も恋人を連れて見送りに行ってしまい、気まずい思いをするというものである。
これは、描き方によってはお笑いにもなるのだが、気まずいお話を気まずいまま描いている。
どこかに巨大な悪がありそれと戦っているのなら、まだ気が楽である。しかし、自分にも相手にも特に悪意がなかったのに、いたたまれない状態になるというのは、実はよくあることではないだろうか。