野川出版の Blog

「ちなみに太郎の仙術の奥義は、懐手して柱か塀によりかかりぼんやり立ったままで、面白くない、面白くない、面白くない、面白くない、面白くないという呪文を何十ぺん何百ぺんとなくくりかえしくりかえし低音でとなえ、ついに無我の境地にはいりこむことにあったという。」

太宰治著『ロマネスク』の中で、仙術太郎が仙術を使うためには「面白くない、面白くない…」ととなえるのだという。
実際、この方法で仙術が使えるかなどわからない。そもそも、このお話はロマネスク、作り話である。
しかし、学校、会社、モテテク、転職面接必勝法、成功者の自伝、定年後孤独にならずにイキイキしてる人の極意、しょうゆラーメンかとんこつラーメンか、おすぎとピーコ存命中なのはどっちだっけ? という世の中の人々が騒いでいることのほとんどが「面白くない、面白くない…」という人にとっては、これが救いになるのだ。
すなわち、そう思うあなたこそ真理に近いという訳である。だから、『ロマネスク』は、ある種の人々にとってバイブルである。